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 '05/03/01 水晶について (2)

前回お話をしたように、水晶はどこか神秘的なところを感じさせる宝石です。中でも、紫から赤紫色をした古来から最も人気のあった水晶がアメジスト( Amethyst )です。欧州各地跡からは加工された紫水晶が発見されていますし、古代エジプトでも装飾品として紫水晶が珍重されました。

 この紫水晶は、ギリシャ語の Amethusto's (酔っぱらわない)から生まれたと考えられています。これを身につけると悪酔いを防ぐといわれ、解毒のはたらきがあると信じられていました。そのため、戦いにおいてはケガを防ぐお守りでもありました。こうした逸話のように昔から紫水晶は特別な力をもつ宝石とみなされていたのです。

 アメジストはいろいろな国でとれます。アフリカ大陸、アメリカ大陸、オーストリア大陸など。もちろんアジアでも産出するのですが、現在ではブラジル産がほとんどです。昔は日本(山梨県)でも多くの量がとれていました。その結晶は日本式双晶(傾斜した軸が互いに直角に近い角度84°33′で交わっている双晶)といわれ、また日本で多く産出したためにそう呼ばれるようになったのです。現在はほとんど採れませんが、もし良質の大型結晶が採れたならコレクターの間で高額になるのは間違いないでしょう。

 アメジストは色帯や色むらがもっとも顕著に現れる宝石です。程度の差はあるもののほとんどの石に見られます。とくに大きなサイズで、均一な濃紫色のカット石は評価が高くなります。今日でも最上級の評価が付くのはザンビア産のアメジストです。カットをすると深い紫の色合いが出ます。ただ小さいものしか産出しないため、稀に大きい透明度の高いものは、普通のアメジストの数倍になります。現在おもに産出されているのはブラジル産ですが、広大な地域に無数の産地が存在します。そのため熱処理をして「シトリン」(黄色から黄褐色をした水晶)として出荷するものから、品質の良い最上級の深い色合いのアメジストまで産出されています。

 水晶の合成石は1950年代に工業化が進められ、現在も盛んに製造されています。これは、水晶結晶がもつ圧電気効果を利用した工業用途のためです。交流電場内に置かれた水晶は、その電圧に応じて振動する事から、クォーツ時計でよく知られた発振子などとして広く利用されています。しかし、この電気的性質は単結晶にのみ生じるもので、ほとんどの双晶している天然水晶はこの目的には不適なのです。そのために単結晶の合成が必要だったからです。現在では工業的に量産されているロック・クリスタルのほかにアメジスト、シトリン、スモーキー・クォーツ、また市場ではあまりまだ見ることのないローズ・クォーツやパーティカラード(紫色/黄色、緑色/褐色)など、天然に存在する色の合成水晶はもちろんの事、濃色のグリーンやブルーのように天然には見ることのできない色まで製造されています。このため鑑別はますます難しいものになってきました。しかし、天然石でも合成石でも、その美しさにもかかわらず大量に産出するため比較的安価な宝石です。そのため、我々「質屋」としても、その存在には充分敬意を払っている宝石なのですが、取り扱う時には、どうしても軽視する傾向にあることを、これを機会に反省していかなければいけないのかもしれません。(「小宇宙を科学する」全国宝石学協会発行を参照)




 '05/02/15 水晶について

皆さんは「水晶」と聞いて何を思い浮かべますか。占い師が使う水晶玉を思い出すのではないでしょうか。また水晶玉のブレスレットなども良く見かけることと思います。水晶と一言でいってしまいますが、けっこう奥が深いのです。ここでは水晶全般について分かりやすく、そして、質屋の目から見ての水晶の価値など説明してみようと思います。

 水晶は石英からなっているもので、地球にはありふれた鉱物です。この石英宝石類はおもに、
(1) 透明な結晶質である「水晶類」
(2) 潜晶質である「メノウ類」
の二つに分類されます。一般的に水晶といえば無色透明な結晶 ( ロック・クリスタル ) の事をいいますが、グループの総称としていう場合もあります。この水晶グループには大変多くの種類があり、色や成分、内包物の違いによって約2〜300の種類に分けられるのです。産地によって大変大きな結晶で産出したり、小さな結晶でも希少性があったりとバラエティーにとんだ宝飾品です。

 それでは、最初にお話をするのはロック・クリスタルからです。このロック・クリスタルは宝飾品(指輪やネックレスなど)として使われているのは、あまり見たことがありません。最初にお話をしましたように、水晶玉として良く見かけます。世界一の産出国であるブラジルでは、大きい結晶が採れます。アメリカ合衆国も非常に透明感のあるテリの良いロック・クリスタルが採れます。また、ロシアも良質の物が採れ、最近は特に輸出が多くなってきているそうです。昔は日本でも多くのロック・クリスタルが採れましたが、今では良質の大型結晶はほとんど採れなくなってきました。そのため、もし国産の良質の物があれば、かなりの金額でコレクターに流通すると思われます。

我々質屋がよく目にする良質のロック・クリスタルは、前述の通り「水晶玉」です。この水晶玉もニセモノ ( ガラス球がおもです ) がけっこう市場に流れています。というのも、水晶玉は直径が大きくなってくると高額で流通されるからです。真偽を確かめるには、小さい玉でしたら蛍光器を使うのが早い見方でしょう。以前お話をしたと思いますが、短波紫外線 ( 波長235.6 nm) を照射した時、水晶玉だった場合は「変化なし」になります。ところが、ニセモノは白濁します。これで見分ける事が出来るのです。また直径が大きくて、蛍光器に入らなかったりする場合には、ダブリング ( 二重像現象 ) を見ると分かります。球を紙に書いた字の上に置いた時、ガラス玉の場合は単屈折であるためコロコロとどこの球の上からでも字がダブって見えることはありません。ところが、水晶玉の場合は六方晶系であるため、複屈折性になっておりコロコロと回して字を水晶玉の上から見た場合、どこかダブって見えるところがあるのです。このダブリングがあった球は水晶玉であるということです。皆さんも水晶球がありましたら、試してみてはどうでしょうか。

次回はアメジストです。




 '05/01/29 時計について

皆さんは時計のメーカーをどのくらい知っていますか。最初に思い出す時計のメーカーは何ですか。ブランドバックといえば、ルイヴィトンやエルメス。それでは、時計といえばロレックスやセイコーではないでしょうか。ただバックと違い、時計には中に機械(ムーブメント)が入っています。私のような職業に携わる人やマニアでなければ、時計の中身のことに興味が行く事はないかもしれませんが、今回は少し難しい時計の中身(ムーブメント)についてお話をしようと思います。

「時計」と一概に言ってもたくさんのメーカーがあります。また、柱時計から置時計、そして腕時計に懐中時計などいろいろな種類の時計がありますが、全世界にある(主にスイスです)たくさんの時計メーカーは3種類に分類する事が出来るのです。どういうことかといいますと時計のメーカーはすべてを自社で作っているわけではありません。確かに数社のメーカーは時計のすべてを一社で作っています。しかし、多くの時計メーカーは、中の機械(ムーブメント)を、提供してもらい時計を作っているのです。パーツの一つ一つすべてを自社一貫生産しているメーカーを(1)マニュファクチュール方式のメーカーといいます。機械パーツを他社から仕入れて自社で組み立てているメーカーを(2)エタブリスール方式のメーカーといいます。また、エタブリスール方式のメーカーにパーツを卸している機械メーカー(ムーブメント)を(3)エボーシュメーカーと呼びます。エボーシュメーカーは時計の中身(ムーブメント)を専門的に作っているメーカーです。(後で出てきますがマニュファクチュール方式のメーカーであり、機械(ムーブメント)を他のメーカーに提供しているメーカー(例)ジャガールクルトやジラールペルゴなどのメーカー)もあります。

私見ですが、最近の時計ブームにのって、中身の機械(ムーブメント)にまでこだわるマニアが増えてきた感じがします。機械にこだわって何をどう判断するかという事は、個人によって異なると思いますが、私から一つだけ。マニュファクチュールの時計メーカーだから品質が良いとかエタブリスールのメーカーだから品質が良くないという見方は必ずしも妥当ではないという事を念頭においておくことをお勧めします。  それでは、次にどこのブランドがマニュファクチュールでありエタブリスールであるのか、そしてエボーシュメーカーにはどんなメーカーがあるのかを見ていきましょう。

  1. マニュファクチュール(一貫製造メーカー)
    一番有名なのはロレックスではないかと思います。また、国産の時計メーカーであるセイコーがそうです。そして、ジャガールクルト・ジラールペルゴ・ゼニス・パテックフィリップなどがあります。ただ一般的にマニュファクチュールといわれているロレックス社も前モデルのデイトナはゼニス社の「エル・プリメロ」という機械(ムーブメント)をベースとして使っていたという話は有名です。
  2. エタブリスール
    上記メーカー以外のブランド時計はこの部類に入ります。皆さんの知っているブランドのほとんどが属するのではないでしょうか。主なものを上げてみますと、オーディマピケ・ブライトリング・タグホイヤー・ブルガリ・カルティエ・オメガなどです。ただエタブリスールのメーカーでも自社開発の機械(ムーブメント)を搭載したモデルを発表したり、自社製品に合わせた機械(ムーブメント)を注文して独自の時計を作り上げたりしてオリジナリティーを高める努力も見られます。
  3. エボーシュメーカー
    このメーカーは中の機械(ムーブメント)を製造している会社でスイスには数多くの会社があります。その中でも大きいところを挙げますとETA・バルジュー・ケレック・ユニタス・ファルサなどがあります。最も大きい会社はSMHグループ(スウォッチグループ)の傘下のETA社です。スイスの大部分の時計メーカーの機械(ムーブメント)を提供しています。また、本来はマニュファクチュールメーカーであっても機械(ムーブメント)を他社に提供する事によりエボーシュメーカーにもなる事もあります。
どうでしたか。ちょっと時計を見る目が変わってきたのではないでしょうか。いろいろな時計がありますが、もし時計の中身(ムーブメント)を見る機会がありましたら、確かめてみるのも面白いのではないでしょうか。そして、これから買うことを考えられている方は、見た目の美しさ、使い易さはもちろん、メーカーだけではなく、機械(ムーブメント)についても少し考えてみたら、選択肢が変わってくるかもしれません。


 '05/01/15 ブランドの歴史について(ルイ・ヴィトン)
今回は質草の中でも大きな割合を占める、ブランド商品の歴史について調べてみました。ブランド商品といってもたくさんの種類があります。洋服、バック、時計など・・・。  まず、バックの「質草」としては最高の商品「エルメス」の歴史についてです。つい、質屋から見た言い方になってしまいますが、品質、歴史ともにナンバーワン!です。エルメスについては皆様もご存知だと思いますが、我々質屋はこのような商品も、見て、触って、査定をするのです。
 
1801年

エルメスの創業者、ティエリ・エルメスがドイツのクレフェルドに生まれる。13歳でパリに出ていく。

1837年 36歳のときにパリの「バス・デュ・ランバール通り」に高級馬具の工房をオープンさせる。
1867年 第2回パリ万国博覧会にて、初出品した鞍(クラ)が銀メダルを受賞する。
1878年 1月に初代ティエリ死去。この年、第3回パリ万国博覧会において、グランプリを受賞。
1880年 二代目シャルル・エミール・エルメスが現在地のフォーブル・サントノーレ24番地に移転。馬の鞍の製造が開始された。これまでは、下請け業者だったが、直接顧客に販売をするようになった。
1889年 シャルル・エミールの長男アドルフが事業に加わる。
1892年 「ケリーバック」の原型になる馬鞍を収納するためのバック「オータクロア」を発表。「クロア」とは、フランス語で「ベルト」の意味で、ふたの部分をベルトで締める構造になる。
1900年 後の3代目となるエミール・モーリス ( アドルフの弟 ) が、当時30歳でヨーロッパの王侯貴族に加えロシア皇帝ニコライ2世への馬具とかばんの売込みに成功する。
1902年 アドルフとエミールの兄弟が称号を「エルメス兄弟社」と改める。
1903年 エミール・モーリスは事業の多角化に乗り出し、財布や鞍、バックなどの製造を開始。
1920年 ファスナーの特許を買い取り、ファスナーをバックや衣類に世界で始めて採用をした。後にシャネルがスカートにこのファスナーを使い、これが契機となって衣服にファスナーが使われるようになった。初のファスナーつきのバックが誕生。
1922年 エミール・モーリスは会社の全所有権を買い取り、社名を「エルメス」に戻す。
1926年 アニー・ドーメルによるウィンドーディスプレー始まる。
1927年 時計を発売。同時にスカーフの取り扱いも始める。
1928年 ムートン手袋発売。衣服、旅行用品、時計、宝飾品などの事業に取り入れ、二人の婿、ロベール・デュマとジャン・ゲランにより、フランス中の支店を拡大。
1930年 このころまでに衣服、旅行用品、置き時計、腕時計、宝飾品、金銀細工などの新製品を事業に取り入れる。
1935年 小型 ( 35cm ) の「サック・ア・クロア」を発表した。
1936年 香水を発売。
1937年 スカーフの製造開始。スカーフ第一号は「オムニバスゲームと白い貴婦人」
1945年 現在の商標「4輪馬車と従者」を登録。この馬車の種類は「ディック」と呼ばれるもので、「エルメスは最高の品物を用意しますが、それを御するのはお客様自信」という事を意味している。
1947年 ジャン・ゲラン香水部門設立。
1949年 シルクツルイのネクタイ発表。
1951年

エミール死去。最初の婿であるロベール・ディマが4代目の社長に就任。ロベールは特にスカーフに力を注ぎ、「カレ ( 正方形 ) 」と名づけられた「カレ・エルメス」には1枚1枚にストーリーが存在し、それが個性と芸術性を与えている。また戦後までエルメスの包装紙は薄いベージュだったが、物不足により残っていたオイレンジの紙を使わざるを得なくなり、戦後もその印象からジャン・ゲランがオレンジを継続させた。これが「オレンジ・ボックス」と呼ばれるエルメスの包装箱につながる。また、贈呈用にリボンには毎年、年号とその年のテーマが書き込まれ、それとは別にクリスマス用の特別リボンも存在し、リボンだけでもコレクターが存在するほどのアイテムになっている。

1956年 ビーチタオル発売。「サック・ア・クロア」がモナコ王妃のグリース・ケリーにちなんで「ケリー」と命名された。
1961年 香水部門が独立し、「カレーシュ」発売。「カレーシュ」はエンブレムの四輪馬車にちなみ、「最も優雅で美しい馬車」から命名された。その後「アマゾン」、「オー・トランジュベルト」、「パルファム・ドル・エルメス」、「ヴァンキャトル・ファーブル」が女性用、1970年の「エキパージュ」、「ベラミ」などがある。
1968年 「ミニ・ケリー」が登場。
1969年 「コンスタンス」を発表。
1973年 イギリスの高級シューズメーカー「ジョン・ロブ」のパリ支社がエルメス・グループに加入。
1974年 「カレーシュ」より若い女性向けの香水「アマゾン」を発売。
1976年 時計「ケリー」を発表。
1978年 現在の社長「ジャン・ルイ・ディマ」が5代目に就任。スイス・ビエンヌ地方に、時計のアトリエ「ラ・モントル・エルメス」を設立。以降、本格的に時計分野に参入。
1979年 時計「アルソー」発売。エルメス時計社を設立し、時計部門に正式に参入。
1981年 時計「クリッパー」を発表。
1982年 ツートンの「ケリー」をリリース。
1984年 テーブルウエアへの進出。フランスの映画女優「ジェーン・バーキン」が小さな旅行かばんが欲しかったことから、自らデザイン画を描き、エルメスにオーダーメードで発注。以後、彼女がそのかばんをいつも持ち歩いていた事から有名になり、彼女の名前をつけて商品化した。ジェーン・バーキンが所有しているのは底辺が40センチのモデルだが、他に35cmと30cmのモデルがある。
1986年 「ケリースポーツ」をリリースする。
1987年 エルメス創立150年。以降、年間テーマによる新作発表を展開する。初めてのテーマは「花火」。カーボンファイバー製アタッシュケイス「エスパス」発売。
1988年 年間テーマは「エキゾティズム」。
1990年 年間テーマは「フランス」。
1991年 年間テーマは「アウトドア」。「フルーツライン」を発表。
1992年 年間テーマは「遠い国でのエルメス」。
1993年 年間テーマは「馬」。
1994年 年間テーマは「太陽」。
1995年 香水「24フォーブル」を発表。
1996年 「ケリーアド」を発表。時計「ロケ・H・アーネ」を発表。年間テーマは「音楽」。
1997年 メンズシューズの生産がスタート。年間テーマが「アフリカ」。
1998年 カジュアルラインのバック「フールトゥ・エールバック」を発表。年間テーマは「木」。
1999年 年間テーマは「星」。
2000年 ケリードールを発表。年間テーマは「新世紀の第一歩」
2001年 東京・銀座にファラッシングショップ「メゾン・エルメス」がオープン。年間テーマは「地球」。
2002年 年間テーマが「手」。銀座のメゾン・エルメスにて、日本人アーティストによる展示会「手の好き間」が開催された。
2003年 年間テーマは「地中海」。
 

ざっとみてみました。最近は、手ごろな値段のシリーズが発売されたこともあり、手に入りやすくになってきました。商品を置く店舗も多なりましたので、街で身につけている方を多く見かけるようになりました。まだまだ我々庶民には高嶺の花の部分もありますが、将来はもっと身近なものになるだろうと予想されます。

 


 '04/12/15 質屋の道具
質屋は、お客様から品物をお預かりして保管することが商売ですが、そのためには、その品物に対しての価値を査定しないといけません。査定をする場合にはいろいろな方法がありますが、まず品物を見て判断します。そのためになくてはならない道具が何点かあります。そのうちの1つに「ルーペ」があります。この「ルーペ」について、少し触れてみようと思います。

私が愛用している「ルーペ」はボシュロム製。ツァイスやニコン製のものも持っていますが、いずれもレンズメーカーです。そして私が知る限り、この3社が宝石用「ルーペ」の主だったメーカーです。というのも、宝石用の「ルーペ」は、一般的に使われる「ルーペ」と違い、特殊加工を施す必要があるからと思われます。その特殊な機能とは、色収差の補正と、歪曲収差の補正です。

「ルーペ」のレンズを通して品物を見た場合、色が変わったり中央と端の拡大率が変わってしまっては意味がありません。品物の真偽や価値を査定する為に使用するのですから、色収差の補正、歪曲収差の補正の機能は非情に重要視されます。

また、「ルーペ」には、いろいろな倍率があります。まず標準的に使用するのが10倍の「ルーペ」です。その他には、14倍、20倍などがあります。私は、いつも10倍と20倍のルーペを使っていますが、一概に20倍のルーペで見れば良いという訳ではありません。というのも、レンズが小さくなってきますし、20倍のルーペを通して見ることができた品物の特徴が、必ずしもその査定に影響するわけでもないからです。

ここで、どういう時に「ルーペ」を使用するかを例を挙げて見ましょう。
 
宝石

主だった宝石を見る時には欠かせないものです。以前「目利のいろは」でお話をしましたダイアモンドのクラリティーを思い出してくれればよいのですが、 IF 、 VVS1 ・・・などのランクを判断する際、10倍で見ることが査定の基本になっています。

色石(エメラルド、ルビー、サファイアなど)に関しましても、内包物などを「ルーペ」で見て真偽を見分けます。最近では、真偽のみならず、処理 ( 含浸など ) をしているかどうかを判断しないといけないため必要になってきます。
貴金属 ネックレスやブレスレットなど、貴金属には必ず刻印が打ってあります。大きい製品は「ルーペ」を使わないでも見ることが出来ますが、肉眼で見えないものを「ルーペ」で探したり確認したりします。
時計 新しい物から古い物までいろいろな時計が持ち込まれます。時計の場合は古くなってきますと文字盤や針などが腐食します。それによって大きく相場が変わるため、拡大してみる「ルーペ」は大変重要になっています。また最近では、オリジナルでない時計が多く出回っているため、真偽を見分ける為にも重要な役割を果たしています。
道具類 ステレオや CD コンポなどを見る時にも必要となってくる事があります。これは、中古も多く扱うため年式が重要になってくるのですが、この年式を見るのに、説明書や箱などを見るよりもコードを見るのが一番だからです。ほとんどの物に製造年数が入っているのですが、とにかく小さいため「ルーペ」が必要になってくるのです。
毛皮 前回の「目利のいろは」でお話をしましたように、染められているかいないかよって価値が変わってきます。肉眼では分かりづらいので拡大をして見ます。
ブランドバックなど 最近オリジナルではないブランドのバックや財布などが多く持ち込まれます。真偽を判断する時にルーペは欠かせません。また、中古を扱う事が多いため、痛み具合についても「ルーペ」を通して判断する方が確かになってきます。
 

このように、われわれ質屋にとって、「ルーペ」は、いつも身近に置き、また便利な道具としてなくてはならない商売道具なのです。

 


 '04/11/30 毛皮について(其の弐)
其の壱でお話しましたように、たくさんの毛皮の種類があります。ここでよい毛皮についての見分け方をお話しましょう。一般的に、素材である動物の生産場所、年、季節、また前の章で話しました染色しているかないかを総合的に判断して見分けます。 具体的には、
  1. 毛皮の表面をなでるように触った時に、滑らかな感じがするかどうか。
    または綿毛 ( 下毛 ) が密生しているものは、弾力性があり良い毛皮といわれています。
  2. 染色していないかどうか。
    一般的には染色がしていない毛皮が良いでしょう。
  3. 毛並みが整っているかどうか。
    これを確認するには、毛皮を逆さにしたりして、毛を逆立てて毛並みが整っているかどうかを見ます。
  4. 染色の場合は、色むらがなく全体的に色が一定かどうか。
  5. 毛皮の場合は、どのぐらいの動物の毛皮を使っているか。
    お店の方に聞いてみるのが良いでしょう。大きさ ( サイズ ) によってもちろん違いが出てきますが、何匹の毛皮を使っているかは目安になります。もちろん多いほうが良い毛皮といえるのではないでしょうか。

今回の「毛皮について」を書くに当たり、いろいろな資料を参考にさせてもらいましたが、興味深いことを見つけることが出来ました。それは、もちろん常識的に考えてありうることではあったのですが、オスとメスによって品質が違うという事です。ミンクのオスの特徴としましては差し毛「上毛」が太く、綿毛「下毛」との長さに差があります。このためとても艶があります。しかも、その下の皮もメスに比べますと厚いので、多少重くなりますが、そのおかげで丈夫です。反対にメスの方は差し毛と綿毛との長さの差がなく差し毛が細くしなやかなため柔らかくなっています。このためメスのほうが人気で、必然的に値段も高価になります。私が参考にした資料ではミンクについてだけの記述でしたが、他の毛皮にも当てはまってくるのではないでしょうか。

もう1つ、最近の毛皮の動向について。日本は必ず四季があります。このため寒い冬には暖かい毛皮が必要になっていました。しかし、温暖化のせいかこうも暖かい日が続く昨今、毛皮を必要としなくなってきたのが現状ではないでしょうか。岡山では確かに昔に比べて少なくなってきています。ただ、岡山より北の都市にはまだまだ必要な所もたくさんありますので毛皮としての価値はなくならないだろうとも思います。希少価値の高い品質の良い毛皮はますます高くなり、反対に手軽に着れる養殖毛皮(身近な毛皮)も多くなりと、幅広い市場で扱わなくてはならない品の1つです。




 '04/11/15 毛皮について(其の壱)

日中の暖かい時期を疑いたくなるこの頃ですが、朝夕の冷たい風に11月を感じます。冬将軍を迎えるにあたって毛皮について簡単にお話しをしようと思うのですが・・・。まず、毛皮についてどういった種類があるかをご説明しましょう。

(1)
質屋で一番取り扱いの多い商品は、「ミンク」です。食肉目イタチ科ムステラ属に分類され、水陸両性の小動物です。大別するとワイルドミンク ( 野生 ) と養殖ミンクがあります。近年はたくさんの種類 ( 色 ) が作られ産出量のほとんどが養殖です。ミンクの養殖は 1920 年代頃から品種改良が進み、アメリカ、北欧、日本などで質の高い本格的な毛皮が作られるようになりました。このミンクの毛は綿毛が密集しているために保温性に優れ、光沢の富んだシルキーな刺し毛は耐久性があります。また、天然でたくさんの種類(色)が出ているにもかかわらず染色が容易なため、ますます多くの幅広い色を表現する事が出来るのです。この「染め」と「染めていない天然の色」を見分けるには、毛の部分を息で吹きかけ見ることです。ミンクの肌の色がセーム側のように白かったら「染めていない天然の色」であり、中の肌の色が毛と同じ色であれば「染め」です。これはどの毛皮の種類にもいえることです。この「染めの毛皮」と「染めていない毛皮」は、値段に差が出てきます。「染められていない毛皮」のほうが高価になります。

(2)
次に私のところで多いのが「フォックス」で、相場はそんなに高価ではありません。このため、お返しする事も多い毛皮です。種類としては北半球全般にわたって生息する赤狐、北極地方に生息する北極狐、北および中部アメリカに生息する色狐が野生種としてあります。しかし、自然破壊が進むにつれて、野生狐の数も減少して養殖が盛んに行われるようになりました。その代表的なものには、銀狐、青狐、プラチナ狐、シャドー狐などがあり、そのほとんどがスカンジナビアに生息しています。このフォックスはシルバーやホワイトが多く、時間が経ちますと焼けているように色が変わってきます。このことは「太田質店」で、「フォックス」になかなか手をださない原因の一つになっています。

(3)
「チンチラ」は毛皮の中でも肌触りが良く高価な毛皮の一つになります。元来はアンデス山脈に生息していましたが、現在は北アメリカやヨーロッパの国で養殖されているものが毛皮になっています。このチンチラの刺し毛は退化し非常に滑らかで柔らかい綿毛のみで構成され、毛の密度も非常に高くなっています。皮は軽く極めて薄くデリケートであまり丈夫ではありません。相場はかなりありますが、なかなかチンチラだけの毛皮のコートは見たことがありません。首の部分に使われるといったような、一部分に使われているものが多いように感じます。それだけ高価だということでしょうか。

(4)
「セーブル」はシベリア産のロシアンセーブル ( 黒テン ) とカナダ産のカナダセーブル ( アメリカテン ) とに分かれます。その違いは、シベリア産のほうが毛の密度が高く、より絹の感触に近いということです。これは飼育されている環境の違いにあるといわれています。中でも高価なのが、白い刺毛が混じったもので「シルバリータイプ」 (silvery type) と呼ばれます。やや長い毛足で非常に柔かく、しなやかで光沢があります。しかも軽く耐久性、保温性にすぐれています。「太田質店」にもなかなか来ない高価な毛皮です。

(5)
「スワカラ」( SWAKARA )は( South West Karakul Lamb )の略称でカラクル種の子羊(ラム)のことです。南西アフリカで品種改良を重ねて作り上げた高級な毛皮で、天然の色には黒、茶、グレー、白、ブチがあります。この毛皮は美しい波の模様で肌触りも抜群です。相場も結構あります。

まだまだたくさん毛皮の種類がありますが、「太田質店」として質草になるメインのものはこのぐらいです。他には、リス、ラクーン、ヌートリア、ラビット、ビーバーなどがあります。





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